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労働法宿日直勤務に対する賃金の支払

弁護士 向井 良

1 事務所・工場等の事業場において,終業時刻以降,次の始業時刻までの間,従業員に,交代で緊急対応・会社内の巡回等のために事業場内に待機させる制度をとっているところがあります(例えば,ビル・マンションの管理,医師・看護師等)。こうしたもののうち,夜間に行われて宿泊を伴うものを宿直勤務と呼び,昼間(主に休日の昼間)に行われるものを日直業務と呼ぶことが多いといわれます(以下併せて「宿日直」といいます。)。

こうした宿日直勤務をさせた場合,会社は従業員に賃金を支払う必要があるか,あるとしてどういった内容・額の賃金を支払う必要があるでしょうか。

2⑴ まず,この点に関して,労働基準法41条3号において,「断続的労働に従事する者で,使用者が行政官庁の許可を受けたもの」については,労働基準法の労働時間規制等の適用を受けないこととされていて,さらに,労働基準法施行規則23条が「使用者は,宿直または日直の勤務で断続的な業務について・・・所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合は,これに従事する労働者を,法第32条の規定にかかわらず,使用することができる。」と規定していて,労基署長の許可を要件として,労働時間について定めた労働基準法32条の適用なく,労働者を使用することができることを定めています。

ここでいう「断続的業務」とは,作業自体が長時間継続するものではなく,終了した後しばらく空き時間があり,その後また同じような作業がある,という繰り返しからなる業務をいいます。

宿日直業務のうちこのような「断続的業務」にあたるものは,所定時間労働中の通常の労働に比べて,労働の密度,態様等が大きく異なるため,通常の労働時間等の規制の枠外に置かれているものです。

⑵ こうした労基署長の許可がされる基準は,複数の通達(昭和22年9月13日発基17号等)が出されていますが,以下のように整理することができます。

① 通常の労働の延長ではなく,定時的な構内巡視,緊急の文書,電話の収受または非常事態に備えて待機するもので,ほとんど業務をする必要がないこと

② 1回の宿日直手当の最低額は,当該事業場で宿日直につくことが予定されている労働者に支払われる1日の平均賃金の3分の1以上であること

③ 宿日直の回数が,労働者1人につき,原則として日直は月1回,宿直は週1回を超えないこと(ただし,宿日直を行いうる全ての労働者に宿日直を行わせてもなお不足であり,かつ勤務の労働密度が薄い場合には,これを超えることも可能)

④ 宿直については,相当の睡眠設備を備えていること

⑶ 会社がこうした基準をみたして労基署長の許可を得た場合には,労基法32条の適用がなく,通常の賃金及び時間外勤務手当を支払う義務はないこととなり,上記⑵②の手当を支払えば足りることになります。

なお,労基署長の許可を受けていた場合であっても,実際の運用において許可条件を超える回数の宿日直が行われた場合には,当該宿日直勤務は,労働密度が濃く,精神的肉体的負担も小さい業務とは到底いえず,労基法41条3号の断続的業務には該当しないとされた事例(大阪高判平成22年11月16日労判1026号144ページ)があり,単に許可を得るだけでなく,要件充足に継続的に留意する必要があります。

3 次に,労基法41条3号による労基法32条の適用除外にあたらないときに,会社は宿日直時間について,通常の賃金を支払わなければならないものでしょうか。

この点については,最判平成14年2月28日民集56巻2号361号が基準を示しています。当該事案は,ビル管理会社の従業員の24時間勤務のうち,合計2時間のほかの連続8時間の仮眠時間が労働時間にあたるか,ひいては当該時間について会社は賃金の支払義務を負うかが争われた事案です。最高裁は,従前示された最判平成12年3月9日民集54巻3号801頁の規範を用いて,労基法32条の労働時間は,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,実作業に従事していない仮眠時間が労基法上の労働時間に該当するか否かは,指揮命令下に置かれていたか否かにより定まるとして,仮眠時間であっても,実作業に従事していないというだけでは,指揮命令下から離脱しているとはいえず,当該仮眠時間に労働から離れることを保障されて初めて指揮命令下に置かれていないと評価できるとしました。

すなわち,こうした仮眠時間等が労働時間にあたるか否かは,ひとえに「指揮命令下に置かれているか」という基準で判断されることになりますが,その考慮要素は,場所的に解放されているか,一定程度のまとまった時間解放されているか,(宿日直中なので全く業務対応がないことはないものの)どの程度の頻度で業務対応が発生するか等が挙げられます。

労働者が指揮命令下にあり,宿日直時間が労働時間にあたると評価されるときには,会社は当該時間について賃金の支払義務を負うこととなります。ただし,支払額の計算方法は個別の労働契約の内容によるところであり,全部について時間外勤務手当等を支払う必要がある場合,仮眠時間に関して泊まり手当が支払われているときには,時間外・深夜割増賃金のみ追加して支払う必要がある場合等の場合があり得ます。

なお,上記のいずれの場合であっても,従業員が実際に業務対応をした時間については,時間外勤務手当及び深夜・休日割増賃金を支払う必要があります。

4 さらに,宿日直勤務ではなく,従業員は事業場外で過ごしていいが呼出しがあった場合には,出勤等して緊急対応をすることを求める制度(いわゆるオンコール)もあります。会社に待機することを求めるものではなく場所的拘束がないことを中心に考えれば,オンコール時間は労働時間にあたらないという評価になりそうですが,個別の事案によって使用者による拘束の度合いを勘案して判断することが必要となるものといえます。

(平成30年1月31日執筆)

Hiroshima All-In Law and Accounting Office