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労働法不更新条項の有効性

客員弁護士 三井正信

1 不更新条項をめぐる問題状況

有期労働契約に関し反復更新により期間の定めが形骸していたとされた実質無期型の事例である東芝柳町工場事件・最一小判昭和49・7・22民集28巻5号927頁は雇止めに解雇権濫用法理を類推適用する、即ち更新拒絶に雇止め法理(現労働契約法19条)を適用するにあたってその一判断要素として更新手続のルーズさを考慮したが、これが契機となり、それ以降、企業の労務管理が厳格化され更新手続が厳しくなされる傾向が一般化した。その結果、近年、実質無期型の事例はほとんど姿を消し、雇止めに関して裁判に登場するのは専ら日立メディコ事件・最一小判昭和61・12・4労判486号6頁に代表される期待保護型の事例となっている。したがって、現在、雇止め法理ないしこれを確認し法定化した労働契約法19条(2012年の労働契約法改正で新設)の適用をめぐっては主として期待保護型ないし同条2号が問題となり、その適用要件とされる雇用継続の合理的期待の有無が焦点とされる状況にある。

さて、これまで有期労働契約が反復更新されてきているケースにおいて、使用者によって一方的に不更新ないし更新限度の通告がなされたとしても、それは雇用継続の期待を消滅させるものではないとされる(報徳学園(雇止め)事件・神戸地尼崎支判平成20・10・14労判974号25頁、学校法人立教女学院事件・東京地判平成20・12・25労判981号63頁、労働契約法施行通達「労働契約法の施行について」(平成24年8月10日基発0810第2号))。そこで合意の調達によって期待を消滅・放棄させる、あるいは雇用を終了させるという観点から今度の期間満了で以後契約更新はせず雇用関係は終了する旨の不更新条項(ないしは一定回数ないしは一定期間の更新で雇用は終了し、以後は契約更新しない旨の更新限度条項)が企業において利用されている(以下では、不更新条項と更新限度条項を併せて不更新条項と呼ぶ)。確かに、雇用の最初(第1回目の契約当初)から不更新条項が付されていた場合においてはその条項に基づいてなされる雇止めにはそもそも労働契約法19条の適用はないが、当初はそれらの条項がなかった有期労働契約につき何回目かの契約更新時に使用者がそれを持ち出し更新合意がなされた場合が問題となる。

判例法理を確認した労働契約法19条は強行規定であり、契約当事者が19条の適用除外に合意しても無効と解される。では実質的にみて合意による労働契約法19条の適用除外に等しい帰結をもたらす不更新条項についてはいかに考えるべきか。確かに、合意により直接労働契約法19条の適用除外を行おうとすることと合意された不更新条項によりまずは労働者の雇用継続の期待を消滅・放棄させその結果として有期労働契約が2号の要件を満たさなくなり19条が適用されないとの帰結に至ることは異なるといえよう。しかし、両者はまったく別個であり不更新条項は有効であるとしてその利用を認めるとすれば強行規定たる労働契約法19条が設けられたことの意義が没却されてしまうことにならないだろうか。

たとえ、労働者に説明や情報提供等がなされ合意の実質化をめぐる事情が備わっていても、そもそも労働契約法19条の強行性を没却させる帰結を認めてよいのかという疑問があることに加え、有期労働契約の更新時においては特に労働者の交渉上の地位が弱くなっており、不更新条項を示された労働者は不更新条項に納得できないとして雇止めされたうえで(この場合、労働契約法19条の適用はあるといえる)雇用の継続を求め裁判で争うか、それともここで雇止めされるよりはせめてもう1回契約を更新しわずかながらも雇用の継続を図る方がましかの二者択一の決断を迫られることになるという問題がある。前者を選択すれば後の訴訟にともなう時間的・金銭的・精神的負担(そして、場合によっては敗訴のリスク)を背負うことを強いられ、後者を選択すれば雇用は継続するが(仮に不更新条項が有効とすれば)最後の契約期間の満了で雇用は終了してしまう。したがって、かかる場合に不更新条項付きで更新合意がなされ、たとえそのような更新それ自体が使用者によって説明・情報提供等がなされ合意の実質化を認める事情が存したとしても、依然として労働者にとっては不更新条項につき一定のないしは大きな「不本意」性が存することになるのである(そして、かかる「不本意」性がまさに訴訟等の紛争が生じる原因となっていると考えられる)。

以上のような状況を踏まえ、不更新条項をめぐっては学説・裁判例上激しく議論がなされることとなった。果たしていかに考えるべきであろうか。

 

2 不更新条項をめぐる裁判例・学説の傾向

裁判例としては、(i)不更新条項をめぐる合意を労働契約の合意解約類似のものと解し、あるいは不更新条項により雇用継続の期待の消滅を認め、雇止め法理の適用を認めないもの(近畿コカ・コーラボトリング事件・大阪地判平成17・1・13労判893号150頁)や(ii)不更新条項に労働者が同意することにより雇用継続の期待が放棄されたとし、(要件を欠くとして)雇止め法理の適用を認めないもの(本田技研事件・東京地判平成24・2・17労経速2140号3頁、同事件・東京高判平成24・9・20労経速2162号3頁、同事件・最三小決平成25・4・9労経速2182号34頁)が存する反面、(iii)不更新条項は雇用継続の期待を消滅させず解雇権濫用法理の類推適用に対する評価障害事実のひとつにすぎないとして雇止め法理の適用を認めるもの(明石書店(製作部契約社員・仮処分)事件・東京地決平成22・7・30労判1014号83頁)や(iv)不更新条項は雇止めの予告にすぎないとするもの(東芝ライテック事件・横浜地判平成25・4・25労判1075号14頁)もみられ、必ずしも統一的な理論状況にあるとはいえない。

学説も激しい対立状態を示しており、①不更新条項をめぐる合意を合意解約類似のものとみて有効と解し合意により雇用の終了を認める説、②不更新条項をめぐる合意によって労働者の雇用継続の期待の消滅・放棄を認め、その場合には要件を欠くものとして雇止め法理(現在では労働契約法19条)の適用を認めない説、③不更新条項をめぐる合意により雇用継続の期待は減少するが、雇用継続の期待は客観的・主観的双方からなる諸般の事情を踏まえて認められるものであるのですべては消滅せず、したがって雇止め法理(労働契約法19条)の適用を認める説、④不更新条項の存在を労働契約法19条の適用要件においてではなく雇止めの有効性判断(合理性と相当性の判断)において考慮しようとする説、⑤不更新条項は使用者が期間満了時に雇止めを行うことの予告にすぎない(したがって、雇止め法理つまり労働契約法19条は適用される)とする説、⑥既に示したような不更新条項をめぐる問題点が存するが故に不更新条項は公序良俗違反で無効であるとする説などがあり、軌を一にしない。

以上みてきたように、不更新条項をめぐっては法理論上混沌としており、まさに難問ということができる。なお、有効説に立つ場合には、裁判例・学説とも労働者の同意の有無につき厳格に判断すべきことを説いている点に注意すべきである。

(平成30年1月31日執筆)

Hiroshima All-In Law and Accounting Office